【進行C04】手を尽くす。

「それは何より。過激な主張をする連中はどの程度いました?」
マークの問いにカーリーは答える。
「多数ではありませんがそれなりの人数が居ました。
伯爵がいらっしゃれば状況はよくなる、
と詭弁じみた物言いをせざるを得ませんでしたわ」
恐慌状態に陥った群集の心理は理屈では図れない。
伯爵を希望として目先の不安を逸らした形だ。
過激な主張は街の富裕層を中心に叫ばれたらしい。
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「ばっちり!ま、とはいって俺はもあんまり役に立ってないけどねー」
ナリスはこう言うが、学問も一通り修めた貴族である。
彼の見識が劣っている訳では無い。周りが凄過ぎたのだ。
「我らがオラン、賢者の学院の生徒とその仲間は優秀な者揃いだぞ。」
「もちろん、カーリー、貴女の生徒も良くできていた。
私の出る幕などなかったよ。」
「ジュリア導師はご謙遜でいらっしゃいますわね」
ジュリアの物言いに、カーリーは微笑んでこう返した。
一方、マークはアイナティートと共に具体的な報告を行っていく。
「・・・と、まぁ。色々と省略した要約だとこうなるわけですが。」
「・・・細々とした詳細はちょっと長くて複雑になります。
レポートにでも纏めようかと思うので一先ず今日はお休みください。
そちらもお疲れでしょうし、きっと明日も多忙になる・・・でしょう?」
マークの言い分は尤もだった。
「なるほど。皆さんのお陰で、かなりの事が把握出来ました。
深く感謝しますわ」
カーリーは唸った。
そうであろう、半ば死蔵されていた書物を紐解き、これだけ真相に迫ったのだ。
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「と・・・以上、報告のレポートとなります。」
早朝、伯爵に呼ばれる前の僅かな時間。
マークは必死に纏め上げた報告書をカーリーに提出する。
「まぁ、なんです。私達の提案通りにしますと
伯爵には事実ではない内容を報告する事になりますが・・・」「より大きな危険を避ける為にも致し方ない事かと。」
「貴方の仰りたい事は、よく分かります」
カーリーは頷く。
「私はダンマルク伯爵領の宮廷魔術師ですが、
同時に賢者の学院の一員でもあります。
結果としてオランの国益と平和に沿うのであれば、同意致しますわ。
この件については、私の権限に於いて、情報の管理を認めましょう」
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「あ、そうそう忘れてたぜ」
ストレイは伯爵に持っていた羊皮紙を取り出す。
「被災状況の図面だ。
ま、俺たちが戻るまで、
被害の出てる範囲には入らないことをお勧めするがね」
ストレイから地図を受け取った伯爵は、
しばし地図を凝視すると傍らに控えていた侍従の1人に手渡した。
「有難く、預からせて頂こう...
騎士団にこの地図を渡せ。活用して復興に従事せよ」
「はっ」
足早に侍従は場を去って行った。
「ん?古龍の対処ならカーリーにも頼まれてるし、OKだぜ。
ただ、付いて来たいってなら、お断りだ。
アンタの仕事は、街の混乱を抑えることだろ?
他のことなら後にしてもらえるか?
急いで出発しねぇと、被害が広がるばっかだ。
ま、こっちは任せてくれよ。
カーリー。ちょっと街を離れるが、
ことが治まったら、例の物、よろしく頼むぜ」「私はあまり大した事はできないが、可能なことなら聞かないでもないぞ。
貴方も当然理解しているようだが、あの竜を叩きのめすなんて話でもなさそうだしな。
......まあ、出来れば手短に頼みたい」「うん?・・・まぁ俺ちゃんの剣が役立つ状況ではないと思いますけど・・・」
「何と横柄な物言いをする者達よ」
伯爵は苦笑いを浮かべる。
「だが、その意気や良し。私も森に行きたい訳では無い。
今正に、これからお前達がやろうとしている事を、
依頼しようとしていたのだ」
竜を穏便にこの街から去らせる事。
伯爵は正式にその事を依頼しようとしていたのだ。
「ダンマルク伯、ご足労恐縮です
件のドラゴンに関しましては、目処がつきました
あれを去らしむる手法につきまして、調査が終わったところですただし、森の危険域に入る必要があります
既に、我々の前に行方不明者も出ている模様
つきましては、恐れ多いこと甚だしくは存じ上げますが、
報酬をいただけましたら幸いです特に、我々魔術師には研修という目的があり、
また、学院の生徒としての義務もありますが、
護衛二人にとっては予定外の危険になります
伯爵様の義侠心によって、彼らには格別、報酬を賜りたく愚行仕ります」
ミルは使い慣れない敬語で、折り目正しく伯爵に奏上する。
「ミルと言ったか。お前の主張、尤もな事である。
この件はこのアウグスト・ダンマルクからの依頼として、
正式に報酬を支払う。安心するがよい」
伯爵はミルに大きく頷いた。
「私からも頼む。
今回の一件は予想外の事件だ。
賢者の学院の者にとっては研修だ、これ自体が大きな報酬となる。
だが、護衛の二人は別だ。
伯爵のその頼みとやらは、正式な依頼と受け取らせてもらう。」
ジュリアの言い方はやや無礼であったが、伯爵は不快には思っていないようだ。
「そう受け取って貰って結構。ジュリア導師」
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「カーリーはん、ウチらが戻ってくる頃合い見計ろうて、
この書き留めの流布、準備しててくれはりますか?
ミルはカーリーにこっそりと話をする。
『12匹のニジマス、その先に
妖精達が遊ぶ池がある星が墜ち、さすらいびとがやってきて、妖精達は一対の針を持ってくる
かくて金色の針は最後の力を使いて星を目覚めさせ、役目を終えて消え去った
12匹のニジマスと妖精達の側に、もう針はない
葉は青く茂り、清流は流れ、妖精達とニジマスは星との思い出に花を咲かせ、
永久の平穏にまた、遊ぶ』
ミルはそれなりの演奏と、十人並みの歌唱力でカーリーに聴かせる。
それは、かなりの脚色を付け加えた伝承であった。
「これに、いくらかの枝はとバリエーションをつけて中長期的に、浸透させてください
吟遊詩人に、私たちによる今回の冒険譚とまぜて流してくれてもかまいません
ウチらが戻らへんでも、そうしてください」「実は既に三人、金目の話とかぎつけて、盗賊ギルドのメンバーが先行しとります
今後も後に続くもんがあれへんとも限らへんし、金色の葉とか、
金色の針の話はスルーして、ただのおとぎ話にしといてくれはったら、
ついでに結末で金目のものが消えとったら穏便に済む思います」
「なるほど、モフェット正魔術師の言わんとする事が分かりましたわ」
カーリーは快くミルの提案を承諾した。
「意図的に【枯れた】事にして人々の関心を失わせようというのですね。
そうして、魔法具を守ろうと」
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一方、マークは伯爵に具申を始める。
「見ての通り、寝ながらの状態にしてこの有り様です。
もしこの竜が目覚め、我々に敵意を持てばどうなるかは想像に難くないかと。」「幸い、この竜は温厚な性格で会話による交渉が
可能である事が調査の結果、わかっています。」
「ふむ...穏便に話が出来るか。有難い限りだ」
伯爵は旧ファン王国が竜1匹に滅ぼされた事を知識として知っている。
そうならずに済む可能性が高いのは重畳この上無かった。
「そういうわけで、伯爵。かの森を明確に不可侵地域として
指定されるのが良いかと考える次第なのです。
もっと突っ込んだ約定でも良いかもしれません。」「まず、領民の安全があります。既に行方不明者が出ているわけで。
何らかの対策は必要かと。」「また、彼ら妖精と敵対して良い事などありません。
中には森を迷宮化させる程のものもいる事がわかっておりますし。
そもそも妖精と敵対すると言うのはどうにも外聞が悪いではありませんか。」「証明者は目覚めた竜になって貰いましょう。
竜の仲介の下で妖精と約定を結ぶ。まるで神話の英雄のような話ですよ。」
「ロドラー正魔術師よ。なかなか面白い提案をするな...」
伯爵は顎に手をやり、髭をこすりながら首肯する。
「森の妖精に竜を預かって貰う代わりに、
此方から森の一定の領域には立ち入らない、と」
伯爵も統治者としては人並みに栄誉に関心は持っている。
竜と立会い妖精と親交を結ぶ。実現すれば更なる声望を得られるであろう。
「その提案、乗ろう。妖精と話をつけてきて欲しい。
出来るか?」
伯爵はマークの肩にぽん、と手を置く。
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【GMより】
最終進行第二弾となります。順序は逆ですが(苦笑)
皆さんの「報酬おくれ!」の主張は伯爵に聞き入れられました。
ミルやマークの提案も好意的に受け入れられました。
素晴らしい提案がたくさん出ましたね!
[各種判定結果]
○<演奏>:ミル12 &<歌唱>:ミル7
本文の通り。
○ヘビーフレイルの偽装:ミル12
本文では言及しませんでしたが認めます。
それなりに偽装は上手く出来たでしょう!
ミルの予備ダイスは全て破棄させて頂きました。ごめんなさい!
[備忘録]
○1ゾロ
アイナティート:2回
マーク :1回
ナリス :1回
ジュリア :1回
○支払い
アイナティート:60+60ガメル
ストレイ :100+60+50ガメル
ミル :50ガメル
○収入
ミル :120ガメル
追加報酬 :総額3900ガメル
○消費
ミル :羊皮紙2枚
ストレイ :「仕事」用の地図、被害状況の地図
ライス :ダンマルク伯爵宛の紹介状
○入手
ストレイ :『星』の破片、森の地図、竜の鱗
ジュリア :竜の鱗
アイナティート:竜の鱗
ミル :竜の鱗
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