返答

「毒......」
およそ私には縁のなかったものだ。だが冒険者であればそんなものと関わることもあるのだろう。
関わったならばそれ相応の対応をせねばならない。
突然の非日常に逢い、私の思考回路は変化を始めた。
......そう、衛視だ。
彼には話さなくてはならないことがある。
私は居住まいを正し、彼に向かい合った。
まず何から話すべきか。
......そうだ。「私」とは、真実のところ、誰でもない、それは匿名者である。「私」が「オペレーター」であるためには、あるいはいかなる客観化も命名もそれにおいて生ずべき当の者であるためには、「私」は誰でもない、匿名者であって、いっさいの客観化、命名に先立たねばならない。ゆえに、まずは「私」が誰なのかを明かさねばならない。
どうでもいいが、
「そこのモーリスも一緒に来てる仲間だ、細かいことはモーリスに聞いてくれ。」
身勝手な男だ。
こういう時に舌が回らないなら普段からも口をつぐんでおくが良い。
必要な事を必要なだけ話すとはこうするのだ。
必要な事を必要なだけ話すとはこうするのだ。
「私はモーリス・アバックです。彼はエーリアン、二人ともオランから来た冒険者です。
配達の依頼のためノートンに来ています」
泊まっている宿も教えておく。
これでやっと何があったのかを話すことができる。
「私達は今日仕事を終え、温泉に浸かろうと思ってここに来ましたところ、その入浴場から悲鳴が聞こえましたので、『どうしましたか』と聞いたのです。
そうしたら『中で人が倒れている』『下着がなくなっている』と返答がありました。
このエーリアンは倒れている人物を救助するために浴場に入ったのです。
倒れた原因および下着が無くなった原因についてはわかりません。少なくとも我々は関与していません。
浴場にいる人々にも聞いていただければ同じ事を言うと思います」
これで求められた事には答えたはずだ。あとはこちらからの要望を伝える。
「ところでその気を失っている人物なのですが、いち早く神殿に連れて行くのがよいと思われます。良ければ神殿まで案内していただけないでしょうか?」
少々長くなったが、すべて早口で伝えた。
......起きていることは、まず窃盗は間違いない。
毒が自然界に存在するものでなければ傷害の可能性もある。毒物を所持していることも違法性が認められる場合がある。
それにしても倒れていた人はいつからここにいたのだろうか。
この場で盛られたのでなければこれは遅効性の毒だ。素人の私には毒のことなどわからないが。
PL:
端折れる事など無い。
これで事情聴取の手間も省けたはず。
これで事情聴取の手間も省けたはず。
下着泥棒については、むしろこの衛視の仕事なので、勝手に捜査はしない!