口々八丁

村長はんの目をのぞき込む
おお、びっくりしてはるびっくりしてはる
まあ無理もないかな
爪を確認する
感染のあらゆる兆候の知識と照らし合わせる
目線を追う
結果
シロ、か
ぷうっ、と息をつく
最悪の状況からは、少し離れられたかな
>「オランからの冒険者...派遣されてきた?
> しかも、唐突に何を言っているんだね!」
混乱してはる原因は、ウチの突拍子もない言い回しと、ドウェインなる男の縛り上げられた姿のせいやな
おけ
まずはこっちに耳を貸させるには、と
>「まぁ、落ち着きな。爺さん。 そう生き急ぐ必要もねぇだろ。
> 俺の故郷じゃ、雄鶏の頭を噛み切った狐って話があってだな。
> こーいうときは黙って人様の話を聞くもんだぜ」
パーティーで一番の強面であるヴェンが口火を切ってくれた
びびってる相手には、ヴェンの口調と人相ってのは、すくみ上がらせる効果がめっぽう強い
ヴェンの迫力が充分効いたところで、ウチの口八丁の出番が来る
「いや、すんまへんすんまへん村長はん
びっくりしはりましたやろ、堪忍しておくれやす」
さしあたっては、ヴェンとの落差を際だたせるためにも、頭を下げて下手に出る
今しがた爪のチェックのためにとった村長はんの手を、今度は両手で包んで優しく揉んだ
穏やかで理性的な表情を作って、こっちの話を聞く準備が出来るまではぺこぺこ頭を下げ続けよう
さて、どういう言い回しで、事案を理解させて、協力させるかなぁ
ウチはゆっくり周囲を見回して見せた
「えっと、まずこの有様の説明がいりますね
実はドウェインはんなんですけどね、先刻、暴れ回って人に怪我させてたんで、さしあたり止めたんですわ
いやや、ドウェインはんに怪我はさせてませんし、ドウェインはんが襲った人も、あれ、あのとうり
今は治療受けてます」
村人の治療にあたってるバーラーの姿を手で指し示して、村長はんがその光景を飲み下すのに、また少し間をとって
ハテナが浮かぶ村長はんの表情が回答を求めだすまで待って、それからゆっくりと話を続ける
「んで、そのドウェインはんが暴れ出した原因なんやけど、これがハッキリしてまして、『狂獣病』、いう病気なんです
感染して悪化すると、手当たり次第暴れ出してまうってぇやっかいな病気で、おまけに噛んだりかぐったりされたら傷口から感染してまうって有様で、いやはや、ほんとにもう......」
がりがりと頭をかいて抱えてみせる
さっきみたくまくし立てるのは失敗やったから、一つ一つの事柄を理解するまで待ってから、次の情報を出していこう
「実はこの近辺の村でも発病者が出てて、おんなじように患者が暴れて人を襲う事件が発生してまして
いや、この村以外は同じ病気に感染した動物まで暴れ出してる始末で、ええ、信じられへんやもしれませんけど、ほんまですねん
まま、そのへんは、あとで使いを出して確認してもろたらええ思います」
問題は、まずその使者そのものが感染してへんかどうかの確認が先ってことなんやけど、それはまた後で言い含めることにしよう
「今いったとおり、もう近所の村ではこれと同じか、もっとひどい被害が出てるんです
そのことは領主はんにも連絡が来ててまして、そんで領主はんから国へ、国からオラン魔術師ギルドへ、てな具合に話がわたって、ウチらは魔術師ギルドに雇われてその調査に来ましてん
ああ、ウチは魔術師ギルド所属の、ミル・モフェットいいます、よろしく」
あらためて、握手
「ほんまは、この村に来たらまず村長はんに会って、近辺の状況説明するはずやったんですけど、着くそうそうにドウェインはんの大暴れに出くわした、てなこって、怪我人もようさん出てるし、村長はん相手でも襲いかかる状態やったもんで、事後承諾になってもうたんは堪忍してください」
ふかぶか頭を下げてから、また間をひとつ
ええい我ながら回りくどい
けどしゃぁないな
「ウチと、そこで治療してるバーラーはいろいろ病気の知識もあるもんで、ようよう見たら感染してるか判別がつきます
んでこっちのグリーンリバーは精霊使いなもんで、やっぱり感染者のことが解ります
実はさっき村長はんに 『怒りっぽくなってないかー』 て聞いたんは、村長はんに初期症状出てへんか確かめたかったからなんです
でも村長はんは、ウチの見立てじゃまだ感染してへんから、そこは安心してください」
村長はんの人柄や緊急時の統率力はまだ未知数やけど、誰かてとりあえず我が身の安心があれば、取り乱す危険はいくらか減るやろう、と思いたい
それからウチは村長はんに、狂獣病についての詳しい説明をした
末期に至るまでの潜伏期間のこと、初期症状における性格の変化、食事の嗜好変化のこと、歯の形状変化
なにより、強い伝染力を持ってることと、伝染ルートのこと、死に至る病であること
「暴れ回るってのは、実はこの病気の末期症状なんで、ドウェインはんがここまで悪化する時間があったってことは、他の人ももう何人か感染してるかもしんないんです
せやからどうにかして村の人で感染してる人を調べたほうがええですね
また暴れ出す人が出るかもしらんし、それが複数人ってこともあるし、なにより移る病気や
大元の感染源については......なんか思い当たることある、グリーンリバー?」
病気ってのは精霊力の狂い
本職であるグリーンリバーに聞いてみるほうがええ
彼の袖をちょんちょんと引っ張って話に混ざってもらう
ウチじゃさっぱりわからへん
「さしあたっては、一旦感染したら治療は難しいんですけど、精霊魔法で一時的に眠らせて進行を止めることはできます
けど、それができるのはせいぜい数人が限界で、本格的な治療には司祭がいりますね
そこにおるドワーフの娘、レゾナンテは司祭やねんけど、できれば手はいっぱいあったほうがええ
この村に司祭やってはる人がおればええんやけど......どうでっしゃろ、ええ人おりますやろか?」
この規模の村では、そうそう大人数のアテは期待できへんけど、いちおう聞くだけは聞いてみる
「あ、それからドウェインはんやけど、村長はんは親しいんですか?
どないな人ですのん?
あ、包帯まみれやけど、あれ、誰が巻きはったんやろか」
ドウェインの人となりや職も気になるし、あるいはなにか前兆が何かあったのなら、やっぱり最初に治療した人に当たってみたい
「ウチらが仰せつかってきたのは、この病気の調査です
せやからずっとここに張り付くわけにもいかへんよって、村長はんのほうで、感染拡大の防止にがんばってくれはったら村のひとも安心なんやけど
でも一人じゃ大変やろから、信用のおける口の硬いええ人がおったら、手伝ってもろたほうがええ思います
具体的な方法については、必用ならウチらのほうからもなんぼかは進言できますんで」
これから話す予定の罹患者の隔離やらなんやらは、部外者のウチらじゃとうてい統制なんてできへん
頼みの綱の村長はんの顔色を見る
不安かな?
不安やろね
「いろいろ、やぶからぼうのことで驚きはったやろけど、聞きたいことあったら何でも言うてください
ウチらで答えられることなら何でも答えますさかい」
ウチは大船の船長のように、なんでも来いって顔をして、村長はんの反応をうかがうことにした
さあ聞け、頼れ!
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ヴェンが脅してミルがなだめる、ある意味ヤクザの手法かも
ええと、相談所で緑川さんにまとめていただいた項目のうち、対象→村長で
1.2.3.4.6.7(隔離話除く)
を話します
10.11
については、まず村長の返答と態度を観察してみたいです
5.8.についてはミルは把握してないので、グリーンリバーに引き継いでもらいたいと思います
9.12.13、7(隔離話)
は、次の投稿で村長もしくは別の適任者に聞いていきたいと思います