Ivy Chain

トレンドに戻った俺達は,調査により事件の全容が概ね把握できたことを村長に伝えた。
そして新たな感染者が出ていないことを確認し,一晩ぐっすりと休んだ。
翌日。
レゾナンテは手に入れた施療の霊薬を活用し,助かる見込みが薄かったドウェインを癒した。
村長宅のベッドで人間に戻り,寝息を立てるドウェインに皆胸をなでおろした。
さらに数日かけ,他の感染者も完全に癒した。
正直,俺はここまで上手く事が運ぶとは思っていなかった。
最後の感染者を癒した後,俺達は温泉につかり互いの労をねぎらった。
そして俺達はオランに戻った。
俺が手に入れた内容がさっぱり分からない書物は価値が高いもので,金貨60枚で引き取ってもらえた。
なのでパーティーで得た現金の分け前は辞退した。
「始源の精霊石」は精霊使いとしての力を高めてくれる逸品であったが,力を高める精霊の種類にやや偏りがあること,偽アイナティートが狙っている可能性が否定できな
いというリスクが残っていること,以上2点から手元に置いておくのは危険と判断した。
魔法のスタッフスリングについても,本当であれば喜んで自分のものにするところであったが, それから発射されたブリットで頭部を激しく撃たれたことを否がおうもなく思い出してしまうこと, 装飾が立派過ぎてどうも手になじまないこと,つまりこれも手元に置くのを見送った。
魔術師ギルドを直に訪ね,ヴィステリア導師に仲介してもらい手に入れたのは,ミスリル銀製のチェインメイルアーマーだった。 ミスリル銀は,「真の銀」とも言われる並はずれた強度と取り回しの良さを誇る夢のような金属だ。 ミスリル銀を加工して武具にする技術は,カストゥール王国期のもので,現在は失われている。
「たしかにこの鎖帷子は,あのソムスカが製作した名品中の名品といっていい。 金属製の鎧にありがちな動きの制限が少なく,堅革鎧程度の負担にしかならないというのは魅力だ。 しかしこの『蔦(つた)』はどういうわけか魔力の追加効果が失われてしまっているのだ。」
と鑑定士のような魔術師が俺に言った。
ミスリル銀製の武具には魔力を帯びることによる追加効果が必ずと言ってよい程あるものだ。どうもそういうものが失われてしまっているらしい。 とはいえ,俺にとってどうでもよいことだ。
「野伏としての技量の足かせにならないのに,屈強な戦士がまとう金属鎧並みの防御力というのがいい。 何でもするからこれを譲ってくれ。」
結局,今回入手した「始原の精霊石」と「魔法のスタッフスリング」を下取りに出し,不足分30000ガメルは後で支払うということで勘弁してもらった。 「制約」の魔法までかけられたが,この程度の額なら何とかなるだろう。